プールで水治運動療法

水治運動療法(簡易的に水中リハビリと呼称)の歴史

「水治運動療法」は、1963年ドイツの温泉保養地BAD RAGAZで発祥されたとされています。 その後イギリスに伝承され、オックスフォード大学を中心とする研究グループによって飛躍的な発達を成し遂げました。 当初はリウマチの治療法として3種類の水温差のあるお風呂(オックスフォードバス)が利用されていました。 その後、脳卒中などによる麻痺における痙性の抑制を目的とした治療方法が研究されるに至りました。 そして現在では、イギリスの国家資格に認定されている理学療法の一治療法として、水治療法が取り組まれています。
水中リハビリ

水中でリハビリを行うメリット

まず最大の違いは、陸上では「重力」を意識しなければなりません。 そして水中では「浮力」を意識する必要があります。 このそれぞれの特徴である必然エネルギーはリハビリにおいて重力がマイナスの作用として働き、浮力はプラスの作用として働くと考えて良いでしょう。 つまり、水中リハビリでは水の物理学的特性をプラスの作用として活用した必然エネルギーによる人間の生命エネルギーへの誘発作用が水中リハビリの特徴と言えそうです。

水治運動療法の主な特徴と留意点は?

水治運動療法の主な特徴は、水の物理学的特性を活用した治療方法と言えるでしょう。 特に水の特性である水圧および水温は人間の身体生理学的機能に作用し、 良好な適応を誘発させ、さらに水の特性である浮力(浮力の3態:補助性・支持性・抵抗性)は、 水中で行われる人間の身体運動学的機能に作用し良好な順応を促進させます。
まず第一に留意すべき点は、常に聞く耳を持ち、常に知る努力を怠らないということです。 つまり利用者の立場から感じ、利用者の立場から考えるということです。 トレーナー目線では常に利用者の行為、行動、しぐさを観察し、その変化を見逃してはいけないということ、そしてその変化を記憶と記録に留めておくことが大切です。

水を怖がる方への必要な支援

特に脳卒中などの疾病で身体に麻痺が残っておられる皆さんは、 水中での身体のコントロールが出来ないために“プールに入ると転倒して溺れてしまう” というイメージがあります。 しかし、この様な利用者の姿勢を不安定にする水の作用こそが、実は水中リハビリにおける有効的な作用なのです。 したがって指導者はこの様な不安を取り除くための補助やサポートの仕方が重要な支援となってきます。
水中リハビリ

水中リハビリを経て好転した症例

2009年、日本臨床スポーツ医科学会に発表した論文「脳幹出血四肢麻痺患者に対する起立姿勢保持運動への一考査」において、 立つことも歩くことも出来ない四肢麻痺患者、バランス障害者に対する水治運動療法による臨床的検証作業の経過報告をしました。 その論文の中で被験者が二年後に「水中において自力で立つこと、そして自力で歩くことが可能となった」と報告しました。 ただし、この症例がこの被験者一例のものであったことから、水治運動療法との因果関係については検証に至っておりません。 しかし、立つことも歩くことも出来なかった被験者が、水中では自力で立つ運動が出来るようになったこと。 あるいは水中で自力で歩くという運動が出来るようになったことに関しては、ADL(activities of daily living)を含めた日常生活運動の拡大が図られました。
水野
水野

水野加寿

水治療法士。
城西大学水泳部水中運動リハビリテーション研究室室長。
東京大学大学院総合文化研究科身体運動科学健康スポーツ科学研究員。NPO日本水治運動療法協会理事長。